エルヴェ・テュレ:さく
たにかわ しゅんたろう:やく
株式会社ポプラ社:出版
おすすめ年齢:1~3歳
はじめに
表紙がカラフルできれいですね。
赤、青、黄の3色の丸がたくさん描かれています。
そしてこの絵本、なんと主人公が「たいくつしているきいろいまる」という、黄色い丸です。
人でも動物でも、もはや物ですらない、「黄色い丸」という概念です。
概念が主人公ってすごくないですか。
思わず、この黄色い丸くんが、何か深淵的なイメージにつながるシンボルなんじゃないか、あるいは現代社会の闇を表す比喩なんじゃないか、などと勘ぐってしまいますが、本当に単なる黄色い丸のようです。
その黄色い丸が退屈ゆえに冒険に赴き、行く先々でさまざまなトラブルに巻き込まれる、というわけですね。
「あそぼ」のおすすめポイント
この「あそぼ」は、読者参加型の絵本です。
どういうことかというと、主人公の黄色い丸が、道というか線の上をたどって冒険していくんですが、そこをなぞるように指示するセリフがあるんですね。
具体的には、セリフとして「ゆびで せんを なぞってみて」という文章があり、読み聞かせる人とこどもとでコミュニケーションできるように工夫されています。
そして、このやりとりは、コミュニケーションとして有効であるのに加えて、『目と手の協調』という能力にもかかわってくると考えられます。
なぜらなら、線を視覚的にとらえ、そこに指を置き、線上から逸脱しないように、視覚情報と指の動きを連動させることが求められるからです。
実際に、リハビリテーションの世界では、同じような訓練がありますし、その能力を評価する検査も存在します。
これは、『書く』という能力に関係してきますので、主に就学後に必要となってくるといえるでしょう。
それを就学前から練習しておくのは、悪いことではないかもしれません。
また、読み進めていると、自然に「上」「下」「右」「角」というような、位置関係を学ぶこともできるようになっています。
さらに、表紙にある他の色(赤や青)もいつの間にか出現しますので、基本的な色とその名称についても、しっかり学習できます。
ところで、どうなんですかね。
国によっては(UAEとかそのあたりだったような…)、学校でいっさい「書く」ことをせず、タッチパネル画面で勉強を進めるところがあるようです。
そのうちに「書く」という行為自体が時代遅れになっていくんでしょうか。
この黄色い丸くんが進む道は、絵本の前半はぐるぐるの線や、波打っている線で、やがて暗闇の中に入っていき、(まぁあるよな)という範疇の波乱万丈なのですが、これがどんどんエスカレートしていきます。
なんとも文章で表現するのは難しいのですが、メンタルが弱っている時に見たらショックを受けそうな絵が描かれた、破壊的なめちゃくちゃゾーンに突入していくわけです。
しかし、このめちゃくちゃゾーンも暗闇もそうですが、幼い頃からポジティブなところだけでなく、ネガティブなところにも開かれておくことは、決して悪いとは思いません。
全部あって『全体』じゃないですか。
個人的な意見ですが。
さて、黄色い丸くんですが、絵本の後半には、自分の身体の数十倍はあろうかという、『巨大な赤いもの』と対面します。
『巨大な赤いもの』て。
もはや抽象的すぎて、人間の根源的イメージにかかわる『夢』みたいですね。
そしてお話の続きですが、冒険が終わりに近づく頃には、表紙の3色の丸が総出演し、信号機(そういえば信号機の色ですよね)についても、学んでいくことになります。
まとめ
「あそぼ」をご紹介しました。
この絵本は、基本となる色(赤、青、黄)を楽しみながら覚えられるところや、『目と手の協調』という能力の発達に役立つところがポイントです。
1歳のこどもさんから楽しめると思いますので、この絵本の読み聞かせを通して、こどもさんとコミュニケーションしていけるとよいかもしれません。
1~3歳くらいのこどもさんにおすすめです。
画家の人って、絵を描く時には精神的に退行して、こどものように遊ぶ感覚で描くっていうじゃないですか。
画家じゃなくでも、アートにかかわる人ってそういうところがあるように思うんです。
力動的な心理療法(フロイトとかユングを中心とするアレです)の視点でいうと、一時的な精神的退行って、それ自体に癒しの意味があるっていわれているんですよね。
また、ユングに言わせると、夢も『見ること』自体に意味があるそうです(ここはフロイトと違う解釈ですね)。
この作者のエルヴェ・テュレっていう方、こんな作品を描けるほど自在に退行できて、もちろん私は面識がないですが、会ってみたらすごく魅力的な人なんじゃないかな、と思いました。