エリック=カール:さく
もりひさし:やく
偕成社:出版
おすすめ年齢:1~5歳
はじめに
この「はらぺこあおむし」の表紙は、本屋さんの絵本コーナーでよく見ますよね。
誰でも1度は目にしたことがあるんじゃないでしょうか。
見てみると、原版の絵本は1969年に出版されていて、日本では1976年が初版ですね。
時代を超えて愛されている名作なんでしょう。
実際に、絵本の裏表紙を見てみると、
- アメリカ・グラフィックアート協会賞受賞
- 全国学校図書館協議会選定
- 日本図書館協議会選定
- ようちえん絵本大賞
なんていうことがたくさん書かれていて、優良図書としての輝かしい経歴を感じることができます。
ただし、虫嫌いの人以外にとっては、です。
表紙のあのビジュアルがどうしても受け付けない、という人には向かないかもしれません。
今回、うちの娘(1歳8か月)がそろそろアンパンマンはお腹いっぱいだろう、ということで、この絵本を購入してみました。
今は11歳の息子も、保育園でよく読んでいたようです。
そして娘の食いつきっぷりですが、これはとても良いです。
購入した当日に、というか持ち帰って数分で、絵本カバーはめちゃくちゃにされたわけですが、絵本自体には強い興味を持っているようです。
数日間は、「あおむし、する」という、何をするのかよくわからない謎のセリフとともに、私のところにこの絵本を持ってくることがありました。
「はらぺこ あおむし」のストーリーとおすすめポイント
絵本のストーリーとしては、卵からあおむしが生まれて、飯を食って、サナギになって、蝶として羽化する、ただそれだけです。
しかし、どのページを見ても、絵が非常に素晴らしいです。
原色を基調として全ページがカラフルで、こどもの注意をしっかり引き付けられると思います。
さすがは「アメリカ・グラフィックアート協会賞受賞」という感じです。
ちなみに、作者のエリック=カールさんの絵本をモチーフにした「エリック・カール絵本美術館」というのが2002年にアメリカのマサチューセッツ州、ボストンにできたそうです。
(ホームページ:https://www.carlemuseum.org/)
先に書いたように、ストーリーはとてもシンプルで好感が持てます。
こどもにとって、わかりやすくていいですね。
しかしこの絵本、ストーリー以外にも注目すべき点があって、それは「仕かけ絵本である」という点です。
実際に読んでみるとわかるのですが、すっごく幅が狭いページがあって、そこで果物の名称や、曜日について、そして1つずつ増えていく『数』の概念を学べるようになっています。
また、ページによっては、赤、黄色、青、緑といった基本4色の丸が無数に描かれていて、色の名称を覚えるのにもよいと思います。
「赤はどれ?」「これ!」とかやっていると、お母さんと指さしを介したやりとりができますし、コミュニケーションの基礎的な部分の発達を促すのに使えそうですね。
ただ、数概念が理解できるようになるのは、だいたい3~4歳以降ですから、まだうちの娘には早かったかもしれません。
また、曜日の理解についても4~5歳以降だと思います。
この作者のエリック=カールさんって不思議な人ですね。
この「はらぺこあおむし」のカバーでは、その他の著作の紹介がされているんですが、「だんまり こおろぎ」とか「さびしがりやの ほたる」とか「パッチン!とんでコメツキくん」とか、すべて虫が絡んできます。
よっぽど虫が好きなんでしょう。
私も、幼稚園の時の将来の夢が「こんちゅうはかせ」だったのでよくわかります。
ただ、羽化した時の華々しい絵ですが、これ蝶の羽が上下逆じゃないですかね。
意図的にそうしているんでしょうか。
昆虫の変態と、現代のこどもたち
ところで、虫、というか昆虫のことですが、大きい特徴として幼虫→脱皮→サナギ→羽化して成虫になる、というものがあります。
この辺のメカニズム(なんでいったんサナギになって成虫になるのか、とかそういうこと)は、長いことわからなかったそうですが、最近になって解明されつつあるようですね。
そして、実はこの『変態』するということが、臨床心理学と深く関係しているように思います。
変態する、というのはそういうことではありません。
トランスフォームのほうの意味ですね。
心理士がいて、相談者がいて、両者の間でいろんなことが起こって、『変容』が生まれる。
これは、よく錬金術なんかにも例えられるんですが、そういったところがちょっと似ているんですよね。
現代では不登校やひきこもりなんていう問題があります。
そりゃあ、その渦中にいる本人や周囲の方(親御さんとか)は、つらいですよ。
すごく苦しいと思います。
そしてもちろん、その期間を振り返って「無駄だった」と語る当事者がいるわけです。
だけどその一方で、登校できるようになって、あるいは外出できるようになって、自分が不登校(ひきこもり)だった期間は、いま考えると必要だった、と語る当事者も少なくありません。
そのサナギの時期というか、じっとしているマユの時期は、新しい自分に生まれ変わるためにどうしても必要で、必要があってそうなっている、という捉え方もあるわけです。
私個人としては、やがて美しい成虫として羽ばたくために、安全な『殻』に守られながら、じっとしている期間があってもいいんじゃないか、と思っています。
いろいろなことを許容できる世の中であってほしいですね。
まとめ
「はらぺこ あおむし」をご紹介しました。
少数の数概念や、曜日の概念、代表的なフルーツの名称を、楽しみながら覚えられます。
そして、昆虫という生き物が『変態』する神秘について、おこさんが興味を持つきっかけとなってくれるかもしれません。
虫をどうしても受け付けない、という親御さん以外にはおすすめの絵本です。
なお、この「はらぺこあおむし」ですが、YouTubeに動画がアップされていて、しかも歌のおにいさん的な人が、ストーリーに合わせて歌ってくれます。
どうやら、うちの娘はオリジナルの絵本だけでなく、こちらも気に入ったようです。
そしてこの歌のおにいさん的な人、鼻にかかるというか、やや特徴的な歌声の持ち主なんですよね。
これを大げさにデフォルメして物まねして歌い、かつクネクネしたオリジナルダンスを添えたところ、娘は真顔になって、その日は目を合わせてくれませんでしたよ。