五味太郎:作
偕成社:発行
おすすめ年齢:4歳くらい~成人
はじめに
五味太郎さんの名作絵本です。
登場人物は表紙にいる男児のみ。
このこどもが主人公です。
そして表紙には、ショベルカー的なラジコンカーと、地面の中にボールのような物が埋まっているのが見えます。
この絵本、私は個人的に大好きです。
基本的には、冒頭の「おすすめ年齢」に書いた年齢のこどもがターゲットですが、小学生や中学生向けでもあり、親御さん向けでもあり、子育てを終えたおとな向けでもあり、お年寄り向けでもある、という不思議な内容の絵本です。
読み手の親御さんも、これを読んでいて色々と思うところがあるんじゃないでしょうか。
絵本というか、これは何というか、詩ですかね。
「なくしたもの みつけた」のストーリー
ストーリーといいますか、この絵本にはいわゆる起承転結のようなかっちりしたストーリーはありません。
表紙の男児が「うらの はらっぱ」で、失くしたはずのスコップを掘り当て(ショベルカー的なラジコンによって)、今度はそのスコップで穴を掘り進めていくと、男児がこれまでに使ってきた物、かかわってきた物が、次々と出現します。
とてもシンプルなストーリーです。
なんでしょうね~、この味わい深い感じ。
物が見つかる順番は、男児の成長の過程を遡るようになっていて、おそらくあかちゃんの時に使っていたであろうオマルやおもちゃに対して、男児は「へんなもの」「つまらないもの」と言い放ちますが、最後に見つかるベビーベッドは「なつかしいもの」と表現します。
ここが感動的なんですよね。
成長していく過程で、たとえ以前使っていた物を忘れていったとしても、長く居た自分の『場所』は忘れていない、という。
ある物は忘れているのに、ある物は覚えている、というのがこどもっぽくてリアルです。
でも親は、こどもが使っていた物を全部覚えていたりするんですよね~。
そして、そこで男児はうっかり眠ってしまうわけですが、しばらくして目を覚まし、自分が掘り進めた穴の入り口に向かって、急いで帰っていきます。
このページが私は一番好きです。
それまでに遡っていった時のながれを、今度は急速に進めていって、現在に戻るかのような描写です。
これまでに色々あって、成長して、ふとした出来事をきっかけに過去を懐かしんで、そこには良い思い出がたくさんあって、それでもやっぱり“今”が大切で、前に進むために、うたかたのファンタジーに別れを告げて現実に戻っていく。
そんな切なさを感じさせる描写になっています。
『千と千尋の神隠し』の終わり方にちょっと重なるところがありませんか。
こういう内容って、読み聞かされているこどもはそうですが、読み手の感情にも訴えてくるものがあるように思います。
読み手にだって、もちろんこどもだった頃があるわけで、その頃のことを思い出すでしょうから。
子育て中の親御さんなんかは、こどもさんが小さかった頃のことを思い出すんじゃないでしょうか。
そして、主人公のような男児にも、小学5年生にも、中高生にも、青年にも、子育てに奮闘する親にも、中年にも、お年寄りにも、みんなに平等に『こどもの頃』や、大切にしていた物、懐かしい物があるはずで、この男児にご自身を重ね合わせて、色々なことを思い出す。
なんだか、そういうきれいな部分といいますか、琴線に触れるような内容の絵本です。
まとめ
「なくしたもの みつけた」をご紹介しました。
こどもだけでなく、おとなにもおすすめの絵本です。
私たちみんな、色々あって成長して、でもその途中で、鳥がとまり木を見つけて休むように、ときどき過去を振り返って懐かしんだりするじゃないですか。
そして、そこでエネルギーをもらって、また前を向いていく。
そういう感覚が、この絵本の男児のような幼いこどもにもあるのかな、なんてことを考えました。
うちの11歳の息子にも、まだ1歳の娘にも、そういうのあるんですかね。
いつか聞いてみたいです。