Pienikukka ピエニクッカ

な~の, 絵本のレビュー

絵本を通して『世界』を知る

-こども発達と臨床心理学の視点から-
こどもに絵本を読み聞かせるのは、こどもの発達にとても良いといわれています。
こどもは、絵本を通して知らない世界を体験し、登場人物の気持ちを想像し、道徳を学んでいきます。

こどもの頃に読んだ絵本って、大人になってもふとした瞬間に思い出したりしますよね。
「これよんで」と、お母さんのところに大好きな絵本をもっていく時の、あのワクワクした気持ち。
絵本を読み聞かせてくれながら、声色を変えて何役もこなすお母さんのあの感じ。
何度も開きすぎてクセがついて、そこだけ色あせているお気に入りのページ。
どんなに電子書籍が時代を席捲しても、絵本を「もっている」というあの感覚は、
こどもにとって特別で、大切なものかもしれません。

臨床心理学には、世界の事象や人間の営みのパターンが、時代を超えて、物語や映画、小説といった
さまざまなフィクションに表れるという考え方があります。
つまり、気が遠くなるほどの昔から延々と繰り返されてきた普遍的なことが、
フィクションの作者を通して、無意識に作品の中に表現されるということです。

その最たるものが、神話です。
もちろん絵本も例外ではありません。

このサイトでは、そういった視点からも絵本をレビューしていけたらいいな、と考えています。

OKAERIってこんなところ

ピエニクッカとは
ピエニクッカは、こどもの発達に役立つ絵本について臨床心理士がレビューするブログです。それ以外に、子育てにかかわる記事も書いていきます。ちなみに、「Pienikukkaピエニクッカ」って、フィンランド語で「小さい花」っていう意味です。
こどもの発達と臨床心理学の視点
筆者が小児にかかわっている臨床心理士ということがあって、絵本のレビューは、こどもの発達や、臨床心理学の視点をふまえて書いてます。でも全く違うものもありますし、もちろん筆者の個人的な考えも含まれてます。いろいろですね。
ブログを書いている人
ピエニクッカの筆者は、小児病院で働いたり、自分で訪問発達サポートを運営したりしている臨床心理士です。こどもさんに心理検査をしたり、親御さんの相談に乗ったり、カウンセリングしたりしています。趣味はガーデニングと、ホームセンターに行くことです。

時のながれと切なさを感じる「なくしたもの みつけた」

五味太郎:作
偕成社:発行
おすすめ年齢:4歳くらい~成人

はじめに

五味太郎さんの名作絵本です。
登場人物は表紙にいる男児のみ。
このこどもが主人公です。
そして表紙には、ショベルカー的なラジコンカーと、地面の中にボールのような物が埋まっているのが見えます。

この絵本、私は個人的に大好きです。
基本的には、冒頭の「おすすめ年齢」に書いた年齢のこどもがターゲットですが、小学生や中学生向けでもあり、親御さん向けでもあり、子育てを終えたおとな向けでもあり、お年寄り向けでもある、という不思議な内容の絵本です。
読み手の親御さんも、これを読んでいて色々と思うところがあるんじゃないでしょうか。
絵本というか、これは何というか、詩ですかね。

「なくしたもの みつけた」のストーリー

ストーリーといいますか、この絵本にはいわゆる起承転結のようなかっちりしたストーリーはありません。
表紙の男児が「うらの はらっぱ」で、失くしたはずのスコップを掘り当て(ショベルカー的なラジコンによって)、今度はそのスコップで穴を掘り進めていくと、男児がこれまでに使ってきた物、かかわってきた物が、次々と出現します。
とてもシンプルなストーリーです。
なんでしょうね~、この味わい深い感じ。
物が見つかる順番は、男児の成長の過程を遡るようになっていて、おそらくあかちゃんの時に使っていたであろうオマルやおもちゃに対して、男児は「へんなもの」「つまらないもの」と言い放ちますが、最後に見つかるベビーベッドは「なつかしいもの」と表現します。
ここが感動的なんですよね。
成長していく過程で、たとえ以前使っていた物を忘れていったとしても、長く居た自分の『場所』は忘れていない、という。
ある物は忘れているのに、ある物は覚えている、というのがこどもっぽくてリアルです。
でも親は、こどもが使っていた物を全部覚えていたりするんですよね~。

そして、そこで男児はうっかり眠ってしまうわけですが、しばらくして目を覚まし、自分が掘り進めた穴の入り口に向かって、急いで帰っていきます。
このページが私は一番好きです。
それまでに遡っていった時のながれを、今度は急速に進めていって、現在に戻るかのような描写です。
これまでに色々あって、成長して、ふとした出来事をきっかけに過去を懐かしんで、そこには良い思い出がたくさんあって、それでもやっぱり“今”が大切で、前に進むために、うたかたのファンタジーに別れを告げて現実に戻っていく。
そんな切なさを感じさせる描写になっています。
『千と千尋の神隠し』の終わり方にちょっと重なるところがありませんか。

こういう内容って、読み聞かされているこどもはそうですが、読み手の感情にも訴えてくるものがあるように思います。
読み手にだって、もちろんこどもだった頃があるわけで、その頃のことを思い出すでしょうから。
子育て中の親御さんなんかは、こどもさんが小さかった頃のことを思い出すんじゃないでしょうか。
そして、主人公のような男児にも、小学5年生にも、中高生にも、青年にも、子育てに奮闘する親にも、中年にも、お年寄りにも、みんなに平等に『こどもの頃』や、大切にしていた物、懐かしい物があるはずで、この男児にご自身を重ね合わせて、色々なことを思い出す。
なんだか、そういうきれいな部分といいますか、琴線に触れるような内容の絵本です。

まとめ

「なくしたもの みつけた」をご紹介しました。
こどもだけでなく、おとなにもおすすめの絵本です。

私たちみんな、色々あって成長して、でもその途中で、鳥がとまり木を見つけて休むように、ときどき過去を振り返って懐かしんだりするじゃないですか。
そして、そこでエネルギーをもらって、また前を向いていく。
そういう感覚が、この絵本の男児のような幼いこどもにもあるのかな、なんてことを考えました。
うちの11歳の息子にも、まだ1歳の娘にも、そういうのあるんですかね。
いつか聞いてみたいです。

 


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