下田昌克:え
谷川俊太郎:ぷん(文)
株式会社クレヨンハウス:発行
おすすめ年齢:0~1歳
はじめに
画像の絵本の表紙にはありませんが、うちにある絵本の表紙には、『「あーん」と「ぷーん」で毎日生きるあかちゃんへ』と書かれたシールが貼ってあります。
あかちゃん向けの絵本ですね。
そして、表紙に赤くクレヨンか何かで書き殴られた丸い“何か”が描かれています。
また、それを口で受け止めようとする生き物、これも何なのか不明です。
強いていえば、『食べる者』という概念でしょうか。
あかちゃん向けの絵本ということがあって、『あそぼ』のように抽象的な、いや抽象的すぎる内容のようです。
早くもきびしいレビューになる予感があります。
「あーん」のおすすめポイント
例によって、この絵本にはストーリーらしきものがありません。
文章もなく、書かれているのは「あーん」「んぐ」などの擬音的なものだけです。
ページの使い方もきわめて大胆で、見開きの片ページに上記の擬音、もう片ページに表紙の謎の生物が描かれているのみです。
絵本であると同時に、読み聞かせる親御さんとあかちゃんがコミュニケーションするためのツールであるといえるでしょう。
ただ、それ以上のおすすめポイントなんて存在しないのでは、とも思います。
内容としては、表紙の生物(形状が自在に変わり、途中からヘビに見えてきます)が何かを食べ、放屁し、そして脱糞します。
それだけ。本当にそれだけです。
まさにあかちゃんの生命活動そのものといった感じです。
この頃のあかちゃんって、本当に本能のみで生きているというか、価値観が快・不快しかないんですよね。
腹が減ったから食べる、排せつする、眠る、活動としてはそれくらいでしょうか。
それが仕事ですから。
そして、臨床心理学的に言及すると、この快・不快という対極の価値観、これはその後の発達にとって極めて重要な意味を持ちます。
力動的心理療法の流れをくむ考え方の1つに、対象関係論というものがあります。
これは、メラニー・クラインという人が提唱しました。
この対象関係論の考え方では、あかちゃんの頃の人間は、食べ物をくれる人(=快)と、くれない人(=不快)とに、認識が極端に分裂しているらしいんです。
まだ、そのどちらの面をも有するのがひとりの相手だってことを理解できないんですね。
専門的にいうと、このステージのあかちゃんは、「良い対象」と「悪い対象」が分裂している『妄想ー分裂ポジション』なんて呼ばれたりします。
そして、自我がうまく成長しないと、その分裂した価値観をそのまま引きずって、相手を『黒』か『白』という極端な価値観で相手を判断するような(グレーが存在しない)、そういう一面が大人になっても残るといわれています。
ただ、ここまで書いておいてなんですが、この「あーん」を読み聞かせることが、『良い対象』と『悪い対象』の統合を促すかというと、そんなことは全くないと思います。
まとめ
「あーん」をご紹介しました。
この絵本、最初期といいますか、0歳児のこどもさんにも読み聞かせることができ、それなりのリアクションが得られるところがポイントです。
読み手とこどもさんのコミュニケーションツールとして優秀な絵本ですね。
生後半年くらいからのこどもさんにおすすめです。
今回はなんだか脱線して、絵本とは無関係なところまで書いてしまいました。
でも、原初的というか、あかちゃんが本能のみに従って生きる様は、やはり人間の根源的な姿ですし、それだけ考えさせられるものです。
うちの娘なんか、ウサギのぬいぐるみに「うさちゃん、どうじょ」などとかわいらしく言って、食べていたミカンを半分あげたりするわけですが、10秒くらい目を離して再び見たら、そのミカン無くなってました(自分でもりもり食べてました)よ。
本能に従って生きていていいですね、ほんとにうらやましい。