石津ちひろ:作
下谷二助:絵
国土社:発行
おすすめ年齢:2歳~
はじめに
下谷二助さんの独特なイラストが全ページに描かれた絵本です。
一見すると、こどものための絵というか、こどもが描いたのかと思うような印象で、それだけこどもの求心力があるのかな、と思います。
そして、表紙をめくると、表紙裏の『そで』に、作者である石津ちひろさんと、下谷二助さんの対談チックな会話が書かれていて、これもまた味わい深いです。
こどもの「だって…」は、相手との信頼関係があるからこそ発せられる、親子のコミュニケーションとして大切なものだ、という視点で描かれているわけですね。
「だって…」のおすすめポイント
日々こどもと接していると、このタイトルにある「だって…」というセリフをしばしば聞きます。
うちの息子なんかはちょっちゅう言っているどころか、もはやすべてのセンテンスの前に言っているといっても過言ではありません。
そしてこの絵本にも、その描写がにたくさん描かれています。
というか、ほとんどのページが、こどもの「だって…」という言い訳で構成されています。
いや、『言い訳』と断じるのはよくないですね。
こどもにはこどもなりの想いがあって言っているわけですから。
この絵本では、親がこどもを叱り、こどもの「だって…」というセリフがあって、次のページに、そのこどもなりの『理由』といいますか、イメージの世界を表したページが続きます。
やっぱりこどもなりに理由があるんですね。
親がこどもを叱るセリフは、なぜご飯をもっと食べないのとか、なんでお風呂に入らないのとか、どうしてテレビばかり見るのとか、日常で私たちがこどもに言いがちなセリフ、そして私たちがこどもの頃に親から言われてきた(であろう)セリフばかりです。
こどもの頃に親から言われて(うざったいなぁ…)と思っていたことを、今度は自分が親になったらこどもに言っている。
不思議です。
ただこの絵本、後半へ進むにつれて、なんであたらしいパパを嫌うのかとか、なぜ毎日おねしょをするのかなんていう、(これは…)というセリフが増えていきます。
このあたりは、現代的というか、“いま”を表している感じですかね。
こどもの言い訳
この絵本で、こどもの「だって…」というセリフを引き出すことになる親のセリフ、これは全ページを通して同じ意味です。
すなわち、「なんで」「なぜ」という、理由を問いただすセリフです。
しかしこれ、実はこどもにとって非常にきびしいものですよね。
物事の理由説明とか、状況説明とかを、理路整然とできるようになるのって、実は言語発達の課題において初期ではありません。
それなのに、私たちは(私だけかもですが)、幼いこどもに対して「なんでこんなことしたの!?」「なんで!?」と、責め立ててしまいがちです。
そして責められたこどもは、(何か言わなきゃ…)ってことで、適当なことを言う。
理由説明はまだできないから、答えになっていないことを言う。
また親が「だから、なんで!?」となって話がこじれる……
これは不毛なやりとりですよね。
一般的に、まだ幼いこどもや、言葉での説明が苦手なこどもに対して、「なぜ?」という質問は酷です。
そういった質問で追いつめるよりは、「〇〇だったのかな?」というように、こどもの説明をこちらが補うかたちで声かけしてあげるとよいかもしれません。
また、場合によっては、こどもがyes/noで答えられるように、質問を工夫していけるとよいでしょう。
ちなみに、自分の言葉でフリーに答えるような質問を「オープンクエスチョン」と呼び、yes/noで答えるような質問は「クローズドクエスチョン」って呼ぶんですよね。
こどもさんの成長過程や、タイプ(話すことが得意かどうか)によって、クローズドクエスチョンから段階的にオープンクエスチョンに移行していくのが理想的だといえるでしょう。
まとめ
絵本の「だって…」をご紹介しました。
親の立場からは「なぜ?」と思うようなことでも、こどもの立場ではしっかり理由があったりします。
この絵本の読み聞かせがそんなことを知るきっかけいなるかもしれません。
なんていうか、親の立場からすると、こどもがクローズドクエスチョンにyes/noで答えるだけになるのは、そのこどもが大人になってから困るんじゃないか…っていう心配があるじゃないですか。
それよりは、自分の言葉でしっかり説明できるようになってほしい。
それゆえに、時には厳しく追及したり、叱ったりする。
しかし、やっぱりこどもにもタイプがありますからね。
理由説明が得意なこどもと、そうではないこどもがいます。
それに、たぶんですけど、上に書いたような心配は不要な気がするんです。
そうはならないと思います。