tupera tupera:さく
株式会社 学研教育出版:発行
おすすめ年齢:1~3歳
はじめに
絵本の裏表紙を見てみると、「tupera tupera」って、亀山達矢さんという方と、中川敦子さんという方のユニットらしいですね。
絵本の他にも、アニメーションや舞台に術など、いろいろな活動をされているようです。
さて、この「くだものさん」と「やさいさん」ですが、それぞれ別個の絵本です。
ただ、内容については重なるところが多く、同シリーズの仕かけ絵本となっています。
今回はそういった事情で、2冊まとめてのレビューとなりました。
このシリーズ、人気ありますよね~。
小児科クリニックとか、こどもが集まる場所によく置かれています。
それだけこどもを引きつける魅力があるんでしょう。
「くだものさん」と「やさいさん」のおすすめポイント
仕かけ絵本と書きましたが、どういうことかというと、全ページが折りたたみ式になっています。
折りたたまれた状態では、「くだものさん」の方では木の葉に隠れてくだもの本体が見えず、「やさいさん」の方では土の下のやさい本体は見えず、土から上の葉っぱだけが見えているわけですね。
そして、折りたたまれたページを開くと、それぞれの本体とご対面できるわけです。
1歳とかそれ以前のこどもって、目の前に何かあって、それを布かなにかでパッと隠すと、まるでその物が無いかのようにふるまったりしますよね。
忘れてしまったかのように見える。
これって、『たとえ見えなくてもその物自体はそこに存在し続ける』ということを、まだ理解できていないからだといわれています。
難しく書くと、『対象の恒常性』なんていわれる概念です。
この「くだものさん」と「やさいさん」って、けっこうそこを刺激しますよね。
たとえ仕かけページで隠されていても、隠された本体がしっかりそこに存在するってことを、自然に覚えていくわけです。
また、木の葉の形状や、土から出ている葉っぱの形状を覚えることで、隠された本体を想像できるようになる、つまり関連づけて記憶する、ということも学んでいけます。
これが発展していくと、位置関係とかも覚えるようになって、ワーキングメモリーが鍛えられ、神経衰弱(トランプ)なんていう遊びができるようになるわけです。
それはずいぶん先の話でしょうが。
ところで、上に「ワーキングメモリー」と書きましたが、この概念は最近よく目にするようになりましたよね。
これって、つまり集中力とかに関係する知的能力の一側面なわけですが、いわゆるADHDのお子さんが不得意とる部分です。
ただ、訓練によってここを伸ばしていけることも最近わかってきました。
私は仕事上、よくこどもさんに心理検査をしているわけですが、このワーキングメモリーはけっこう知的能力に直結してきます。
だから、小さい頃からここを伸ばしていくのは、とても良いことだと思っています。
ただし、訓練的になるのはダメです。
強制するとこどもさんが嫌になっちゃいますからね。
あくまで楽しみながら、というのがおすすめです。
まとめ
「くだものさん」と「やさいさん」の2冊をご紹介しました。
この絵本たちは、対象の恒常性の獲得や、視覚的短期記憶、そしてワーキングメモリーといった知的側面の発達に関係していると思います。
そして、読み手とのかかわりを通して、それらを発達を促すことを期待できそうです。
ところで、この2冊の絵本、中身のイラストがとてもかわいいのです。
ただ、どういうわけか、表紙のくだものさん(リンゴ)とやさいさん(ニンジン)の目から、もの静かな狂気を感じます。
振り返って彼らからこの目で見られていたら泣いてしまうかもしれません。
「いつも見てるよ」、いや、「いつも覗(み)てるよ」って感じですよね。
私だけそう感じるのかもしれませんが。
中身のかわいいくだものさんや、やさいさんを表紙にすればいいのに…と、個人的には思っています。